局後解説
(吉岡)
囲碁が強い人たちは、打ち終わった後で、局面を最初から全て再現できる場合がほとんどです。これ、はじめて目の当たりにすると本当に驚きます。でも、僕らがさらさらとコードを書いたり、ツールを使いこなしたりするのも、他の職種の人から見たらやはり驚きなのでしょう。ですから、初手から並べ直しができるのは訓練次第と思いますが、もっと驚くのは、上手な方の打つ手には、全て意味がある事です。そして、相手の手の意味も推しはかれるそうです。だからこそ、初手からの並べ直しができるのでしょう。囲碁を別名「手談」と言うそうですが、上手な方は本当に対話しているみたいです。またしてもプログラミングに例えると、他の人が書いたコードを読むうちに、その人の性格や、考え方が推しはかれることがあります。これは、上手な人のコードであるほど、その感覚が強いように思います。これも、良く似ています。なので、この局後解説は、打った本人達が意識していなかった考えまであからさまにされてしまうものでした。
(王先生)
三宅さんと、万波先生の対局です。「置き碁」なので、白が先番です。
黒2は上のほうを陣地にしたいという手。白3と石をくっつけてきたら、その近くに打つのが普通なのですが、三宅さんは白に右下を与えても、黒4と守って左側、上側を陣地にすれば勝てるとの狙いから黒4と打ったそうです。始めたばかりでこの考え方ができるのはすごいことですよ!
白11に黒12としっかり守って素晴らしいです。ただ黒14はちょっと守りすぎで、黒Aと黒地を広げながら白を止めるほうがよかったと思います。
ここまでで圧倒的に黒が優勢。そこで万波先生は黒地を荒らそうと白15と左上に入ってきました。ちょっとのけぞる三宅さん。確かに自分の陣地だと思っているところに相手が入ってきたらどうしようと思いますよね。
それでも、黒16、18と白に生きるためのスペースを作らせないように冷静に対処します。
そして白が19と眼を作りにきたとき、ここで三宅さんに神の一手(?)が! どうやって相手に眼を作らせないようにするかまだ習っていない三宅さんが黒20と打ったのです! 実はこの手が白の眼を取る急所。ここに打たれると白は1つしか眼を作ることができません。この手には万波先生も感心しきりでした。黒24まででしっかり白を包囲して、左上の白はもう生きられません。
その後、三宅さんにちょっと欲が出たようで、白の陣地に入っていきましたが、これは敵の大軍の中に少数の兵で乗り込んでいくようなもの。万波先生に厳しく仕留められてしまいました。
最後、「整地」という作業をして「陣地の数」を数えます。このとき、黒△、白△のように盤上に残された石は「死に石」として、囲って取った石を合わせて相手の陣地に埋めます。
数えてみると黒の10目勝ち。最初はしっかりと守り、自分の強い所に相手が入ってきたときは厳しく攻めるという、攻めと守りのバランスが取れた碁でした。とても始めたばかりの方とは思えない内容でしたね。