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「CEDEC 2010」開催に寄せて――特別対談

1999年からスタートした、ゲーム開発者のためのイベント「CEDEC(CESAデベロッパーズカンファレンス)」が今年で12回目を迎える。昨年から、会場をパシフィコ横浜(横浜市・みなとみらい地区)に移し、より多くの開発者が交流できるよう環境が整えられてきた。

「CEDEC 2010」(2010年8月31日~9月2日)の開催を控え、今回は主催者である社団法人コンピュータエンターテインメント協会会長の和田洋一氏と、CEDECフェローの松原健二氏に、「CEDEC 2010」開催に寄せる期待や意気込みなどを語っていただいた。

--- 社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)では、毎年秋に開催されます「東京ゲームショウ」や「日本ゲーム大賞」などのさまざまなイベントや、「CESAゲーム白書」など業界の調査広報活動など幅広く行っています。その中で、「CEDEC」はCESA活動の中でどのような位置づけをされているのでしょうか

和田洋一氏

CESA会長 和田洋一

和田 私はCESA会長としてもソフトメーカーの経営者としても、CEDECは「東京ゲームショウ」にも劣らないほど、年々その重要度が増しているように感じています。といいますのも、業界発展のために、開発者による活発なコミュニケーションの場は不可欠であり、CEDECはその役割を担っているからです。

昔のゲーム業界は、非公式な情報交換をする場が結構ありましたが、プラットフォームメーカーの関わりが強くなっていくのに比例して、2000年以降はこのような場が縮小してしまいました。この問題は、CESAが抱えてきた重要な課題でしたが、解決する手段がなかなか見つからなかったのです。

そこに、開発者出身で開発現場をよくご存じの松原さんが、3年前にCEDECの活性化をやっていただけるとお申し出くださった。そこで、CESAとしても全面支援しようと言うことになり現在に至っています。ご多忙のなかCEDECをまとめていただいている松原さんには、感謝しています。

松原 こちらこそ、CEDECに対する力強いバックアップに、心から感謝しております。

お話の通り、開発者にとって情報交換と交流の場は大変重要です。開発者は開発中、集中して自分の世界に入っています。それは当然のことですが、残念ながらコミュニケーションの機会も時間も失われがちになってしまうことが多いのです。

その一方で、開発者はだいたい同じような問題を抱えています。ですが、どんな状況においても、個々の開発者が問題を抱え込むのではなく、問題を顕在化し共有することで、開発者の能力は伸びていくのです。

このように問題を有機的に解決する必要性は、開発者としての経験からも実感しています。また、IT産業を活性化させる土台になっているシリコンバレーの状況からもそのことは伺えると思います。CEDECはそのような問題を開発者が切磋琢磨して解決できる機会を目指しています。

和田 確かにシリコンバレーの状況を見ていても、開発者の交流の場の必要性は実感できます。今年も「CEDEC 2010」にたくさんの開発者の方に来場いただけるといいですね。

松原 私がCEDECに関わった3年前は、約1,300人の方にご来場いただきました。翌年は2,000人、昨年の「CEDEC 2009」は2,600人。将来は5,000人規模を目指していますが、今年は3,000人くらいの方にお越しいただけるようなものを開催できるよう、力を尽くしたいと思います。

■パブリッシャー、デベロッパー、アカデミック。・・・
様々な立場の開発者が交流するCEDEC。

--- 今年はCEDECのプログラムを公募していますが、公募状況はいかがでしたか

松原健二氏

CEDECフェロー 松原健二

松原 おかげさまで、400件近くの公募が集まりました。この場を借りまして、応募してくださったすべての方に心から御礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。

しかも、応募の半数近くがデベロッパーの皆さんによるものだったことも、うれしく思っています。

和田 それはいいニュースです。日本もまだまだ捨てたものではありませんね。

松原 しかも、アカデミック関係者による応募も多かった。これも、ありがたかったですね。アカデミック方面の方々からすれば、CEDECはどうしても商業的なイメージが強いので、敷居がどうしても高くなるのは事実ですから、その敷居を乗り越えてくれた応募者の皆さんには、心から感謝しています。

和田 そのように、様々な分野の方々がCEDECを通じて交流してくださることで、業界の底力もあがっていくのではないでしょうか。昼はアジェンダにのっとって議論していただくにしても、夜は題目なしで、開発者の皆さんには自由に交流してもらうのがいいのではないかと思いますね。

松原 そうですね。アメリカで毎年開催されている「GDC」でも、毎夜さまざまなパーティが開催されていますが、そのような場で世界中の開発者が自由に交流しているのを見ると、同じような場を日本でも作ることの重要性を感じます。開発者はどうしても忙しいですから、自分から言い出すことはかなり難しい。ですので、そういう場を継続的に確保してあげるのも、CEDECの重要な仕事だと思っています。

その意味では、毎年二日目の夜に開催している開発者向けパーティ「Deveopers Night」は象徴的なものと言えるのではないでしょうか。このパーティは好評でして、おかげさまでチケットは毎年完売する人気です。購入をご検討の方は、なるべくお早めにお買い求めいただくことをお勧めいたします。

■広がる「CEDEC」への期待
将来は”知の集積場”を目指す

和田 このように最近のCEDECは、さまざまな分野の方が一同に交流しています。でも、それだけで終わってしまうのは少々もったいない気もしますね。

と申しますのも、私の本音を申し上げると、CEDECを母体にして本を出したいくらいなのです。できれば、年ごとにCEDECの発表をまとめた本が出るくらいまでいけるといいですよね。

私は渡米・渡欧時、本屋に立ち寄るたびに思いますが、あちらはゲーム開発者向けの書籍が毎年たくさん出版されています。その一方で日本は、少なすぎる。私はこの状況に忸怩たる思いを抱えています。松原さんが昨年監訳された「『ヒットする』のゲームデザイン」(オライリー・ジャパン)のような本が、もっと出版されることを望んでいます。

松原 日本の関連書籍の少なさは、日本の弱さですよね。私もその点を大変危惧していまして、昨年「CEDEC AWARDS」で著述賞を設けました。

昨年の受賞者は「ゲームプログラマになるまえに覚えておきたい技術」(秀和システム)を書かれたセガの平山尚さんでしたが、あの本は大変画期的な本でした。セガの新人教育カリキュラムから生まれたゲームプログラミング解説書で、800ページにまとめてくださった力作です。

一方、欧米では、プログラミング、CG、サウンド、ゲームデザインなどありとあらゆる分野の書籍が、ペーパーバックレベルで大量に発売されています。ページ数は平山さんの半分で結構ですから(笑)、平山さんに続く人がたくさんでてくださるよう願っています。

また、発表記録のアーカイブ化ですが、昨年の「CEDEC 2009」から、少しずつですが始めています。非公開のものもありますので全部は難しいのですが、なるべく公開できるようにしていく方針です。

--- その一方で、業界内ではCEDECにおいて情報公開をどこまでやっていいのかということに対して、温度差もあるようです

松原 そういうご心配はよく伺います。出せない技術情報は各社あるでしょう、ウチだってもちろんあります。でも「ウチはもっと先に行っているよ」という姿勢を見せることが、私は大切だと思っているのです。

あるひとつの技術に固執しすぎることは、逆にその企業の発展を妨げることになるケースもあります。もし、ある技術が次の段階にいけたならば、その前段階の技術情報を開示してみてはどうでしょう。そうすることで、その企業自体も業界をリードしているという自負も生まれますし、業界全体の開発力を底上げすることもできます。もしかしたら、別の観点から、よりよく開発されるかもしれません。そうすることによって、技術情報を提供した企業もその利益を享受することができるでしょう。

私はここ数年見ていて、業界全体が前向きに技術情報を開示していく方向にシフトしていると感じていますし、それが企業の理想的なあり方だと思います。

和田 確かにそのように、企業や開発者が自分を追い込んでいくことは大切ですね。

松原 欧米の開発者はまさにそのようにして成長していきました。情報をどんどんオープンにして、業界全体の底力をあげていった。日本もそのあたりの動きがもう少しスムーズにいけば、欧米のように伸びていけるのではないでしょうか。

ただ、日本と欧米では開発作業の形が異なります。といいますのも、欧米の作業はフレームワークが基本なので、フレームワーク内の仕事をきちんとこなせる人なら、極端な話誰がやっても同じことができます。ですが、日本はそうはいかない。

その理由のひとつとして、日本の場合、2000年以降のゲーム市場が家庭用ゲーム機に大きく依存していたので、フレームワーク化するよりも個人の職人芸の方が重要だったし、作業自体もフレームワーク化する必要性が低かったことが挙げられます。このあたりも、日本で関連書籍が出にくい要因のひとつといえるでしょう。

和田 いつも、欧米の開発者と話すと実感しますが、彼らは全てにおいてフレームワークを基盤とした考え方をしてきますね。

松原 それは逆に言うと、自分の役割と責任を明確化するということでもあります。「自分の役割はここだよ」ときちんと明示して、他者の役割とつないでいく。それは、マニュアル文化があるからできることですが、だからといって日本が完全にやられっぱなしと言うことでもない。それぞれ、長所があると思います。

■日本のゲーム産業、先行きは”お天気マーク”
そのためには、継続的かつ長期的な人材育成事業への支援が不可欠

松原 話は変わりますが、最近のゲーム業界は大変な状況と言われています。ですが、私自身は先行きを楽観視しています。ゲーム産業の歴史は、30年足らずですし、消費者の楽しみ方もまだ広がる余地がありますので、まだまだ成長の余地があると思っています。

和田 私もそう思います。この業界、先行きは”お天気マーク”、つまり晴れ、ということです。技術の革新によって、受け手のデバイスの数は増えていくわけですから、今よりもチャンスは拡大しますよね。最近、業界は危ないってよく言われますが、様々なデバイスが増加している今、ユーザーも増えているように思います。

松原 また、ゲーム産業は作り手の立場から考えても、他のコンテンツ業界より大変有利な立場にあります。今後も、IT業界などで新技術はいくらでも開発されるわけですから、我々はこの新技術を使いこなして新たなコンテンツを生み出す、ということが可能です。ITを含む技術の進歩に、ある面フリーライドして発展できるのが、ゲーム産業の一番の強みだと私は考えています。

和田 確かに松原さんの仰るとおりですね。新技術の話をするとコスト面の話に終始しがちですが、イノベーションのドライバーが常時提供されている環境は、ゲーム産業の強みでしょう。

松原 まあ、その状況を大変と思うか楽しいと思うかどうか、も重要な要素ではあります。確かに、新しい技術を次々に使いこなすのは大変ですが、定期的に学ぶ場としてもCEDECが機能してくれる事を望んでいます。そのためには、継続的な開催が不可欠なのですが。

和田 継続性は本当に重要ですよね。ゲーム業界を含む、エンターテインメント産業において、人材育成のための土壌作りを継続的に行うことは非常に重要です。

CEDECのような長期視点に立った人材育成事業に関しては、国からの経済的支援が継続的に欲しいところです。最近はコンテンツ産業を「クールジャパン」といって持ち上げてくださることが多いけど、行政側もスローガン先行ではなく、将来的かつ継続的なビジョンを持っていただけるといいですね。CEDECも毎年実施することで効果があがっていることからもお分かりいただけるように、継続的に人材育成を支援する予算の枠組み作りを、行政にもお願いしたい。

松原 仰るとおりですね。私も行政の方々にCEDECの重要性を分かっていただけるよう、CEDECの継続的な活動を支援して参ります。

最後になりましたが、「CEDEC 2010」に対しまして、今年もご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

(聞き手・構成:石島照代)

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