分野「サウンド」
担当者「岸 智也、塚越 晋、渡辺量」
――1.分野の紹介をお願いします。
岸:ゲームにおける音表現の全般を取り扱うのがサウンド分野となります。ゲームサウンドは主に、楽曲、効果音、ボイスに大別できますが、その収録・制作・編集といったクリエイティブだけでなく、音を作る前の環境構築から、サウンドアセット管理、ワークフローやパイプラインの整備、実装上の効率化の工夫といった、クリエイティブを行うための作業まで含まれています。また信号処理、空間音響など研究・開発寄りな話題も取り扱っています。
――2.この分野における講演の特徴はなんですか?
岸:毎年、会場にはサラウンドの視聴環境を準備していますので、最先端のオーディオ表現を実際に音を聴きながら聴講できるのが大きな特徴です。音は聴いてみないと分からないですからね。あと私たち、運営委員は「サウンド部屋」と呼んでいるのですが、基本的にずっと同じ部屋でセッションがあるので、聴講が終わった後も廊下で盛んに情報交換が行われています。
塚越:ゲーム内での音の表現方法についての幅広い知見が集まりますが、その内容も信号処理だけには限らず、サウンドデザインやツールによる工夫など様々です。近年では増加する一方の音声に対する取り扱いについての工夫なども増えています。
渡辺:もちろんサウンド部屋以外にも会場内で様々な交流が行われていますので、CEDECに参加することで、ゲームサウンドに関するあらゆる技術・知識が身につきます!音に携わる他業界の方のお話も例年あり、知見として業務に活かしていただけると思います。
――3.昨今のトレンドはなんですか?
岸:インタラクティブな音表現というのが、サウンド分野の永遠のトレンドかもしれませんが、例えば「インタラクティブミュージック」は、ゲームと連動する楽曲演出、システム設計、そのために意図された楽曲制作など、体系的に取り組まれるようになっています。技術ロードマップにも書かれている「ジェネレーティブ」をキーワードに例えば、様々なフレーズが生成される、音を起点にゲーム体験が生成される、ゲーム体験と連動するだけでなく、よりパーソナルな演出として音が生成される、といったような音表現が、MIDI2.0の登場やDSP処理の強化によって実現していくことが、次のトレンドだと思っています。一度きりしかないゲームプレイに、一度きりしかない演出をするのが究極のサウンド体験ですから。
塚越:機械学習・ディープラーニングによる音の処理や表現が格段に向上しておりトレンドの一つといえます。様々な場面で使われている音声合成がより肉声に近くなったり、歌声が本物と聞き間違えるような表現が可能になってきました。ミックスやマスタリングにも実用的に取り入れられてきています。
渡辺:より没入感を高めるための音場再現も引き続き注目されている分野です。ゲーム機の演算処理能力が高まっている事で、音の伝播をシミュレートしながら、より自然でリアルな音響の再現事例や手法、課題の共有も進んでいます。
――4.トレンドを踏まえ、個人的にぜひ聞きたいトピックはありますか?
塚越:サウンド分野で求めているトピックに「機械学習やディープラーニングの音声への応用」という項目がありますが、音声合成に限らず様々な応用事例を期待しています。また「機械学習をゲームサウンドに活用するための基礎知識」チュートリアルも求めています。ゲームに組み込んでの使用や、制作段階での活用などを何から手を付ければよいのか手順や考え方をぜひ教えてください。
渡辺:個人的にはコンポーザーとして、インタラクティブミュージックはもちろんの事、音楽演出に関わる工夫やこだわりについて聞いてみたいですね。ワールドワイドで展開をしている日本発のたくさんのゲームがありますが、ローカライズや「音のカルチャライズ」に対して何かアプローチをされている事例があればそちらも聞いてみたいです。それからゲーム開発者として、他職種との連携による演出強化や改善事例については、いつも気になっており、ぜひご紹介いただきたいです。
岸:インタラクティブな音表現については、より深化する方向のトピックも楽しみですが、まったく新しい表現が生まれることにも期待しています。新たなスタンダードや将来的にクラシックになるような手法ですね。あと他にも2つポイントがあり、まずは日々のアーティスト性を発揮した楽曲制作や効果音制作など、新人、ベテラン問わず、そのクリエイティブについて熱く語って頂きたいです。次に「テクニカルサウンドデザイン」。これはクリエイターとプログラマーの間に立って両方の技術・知識を併せ持った上で合理的なシステム設計をする、グラフィックスのテクニカルアーティストが行うような役割ですが、今後はより物量とクオリティのバランスを取ることが厳しくなることが予想されるので、こういった役割がゲームサウンドの開発・制作に強く求められると考えています。既に取り組まれていたり、近い経験をしたりしたことのある方には、ぜひご登壇いただきたいです。
――5.過去応募者からの反応はいかがですか?
塚越:登壇された方は、プロジェクトの後半から締め切り間際にかけての作業量が多くなりがちなサウンド分野で、自動化・効率化などへの関心の高さについて実感されていた様子です。増加する一方のアセットの制作や管理、自動化・効率化については多くの人の関心事であるようです。効率化が図られれば、その分の時間や人をクリエイティブな業務へ振り分けることができますし、インプットの時間も作れるようになります。また、発表することによって聴講者からの質問や提案などから新たな気づきも得られ、日々の業務に活かしているそうです。
渡辺:「情報は発信する所に集まる」事を、登壇で得られる多くのネットワークや課題共有によって実感できたというご感想をいただく事はありますね。発信する事で、会社は違えど「同志」と呼べる同様の課題を持つ仲間が増え、勉強会やコミュニティとして醸成されていく事例もあります。ご自身がこだわり抜いた箇所や改善した箇所を発表する事で、その取り組みやチャレンジが言語化され、客観的になり、次の新しい挑戦へと進む棚卸しとして活用されているというお話もいただいた事があります。
岸:CEDEC 2019では、AES(Audio Engineering Society)とのコラボセッションがあったのですが、プロオーディオ業界で議論されていることがゲームサウンドにも適用できるのは分かってはいるけど、どう情報を取ればいいのか分からなかったという方から「入口が見えたような気がします。」という言葉をいただきました。スポンサーで参加いただいているプロオーディオ系の会社様も増加傾向にありますので、ますますプロオーディオの1つとしてゲームオーディオの距離感が縮まっているように個人的には感じています。
――6.応募を考えている方へのメッセージをお願いします。
岸:個人的に聞きたいトピックにも挙げさせていただいたように、皆さまの純粋な「クリエイティブ」については聞いてみたいですね。そこにかける情熱が、誰かの新しい扉を開けるためには重要だと思っています。CEDECは、登壇する人が意図すること、または意図しないことでも、その誰かの新しい扉が開けることができるのが面白いポイントです。また年代に関係なく、そういった刺激を交換できるコミュニティがあることも魅力ですので、ぜひ応募していただけたら幸いです。
塚越:新しい挑戦をしていて失敗をしないということないですよね。その失敗こそが次の成功のカギとなりますし、その失敗や成功するための工夫を共有すればとても大きな社会的な価値となります。サウンド関連の技術は幅が広く、コンピューターエンターテインメントには欠かすことができません。また働き方改革で業務の効率化を求められている昨今ですが、新しい考え方や新しいワークフローの実践なども試していることと思います。そういった皆さんの挑戦事例をお待ちしています。
渡辺:平面の画面に映し出される映像だけではなくVR/AR/MR等の表現や、リアルな映像で繰り広げられる日常では味わえないゲーム体験が次々と出てきている中で、サウンド演出の無限の可能性、重要性や役割について、応募をお考えの皆さんは他の誰よりも気付いているのではないでしょうか。皆さんが常日頃チャレンジされている事を、ぜひ発表いただき刺激や知見を交換し合う事で、ご自身の成長にも繋げていただきつつ、未来へ繋がるゲームサウンド表現の世界を広げていっていただけたら嬉しいです。
――ありがとうございました。