CEDEC 2019ビジュアルアーツ分野インタビュー
~先進的なAI技術と普遍的なビジュアルセンスの両方を求む!
9月4日から6日の3日間にわたりパシフィコ横浜で開催される「CEDEC(コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス)2019」では、セッションの講演者を2月1日から4月1日まで募集している。
今回はCEDECのビジュアルアーツ分野におけるトレンドや、CEDEC 2019の公募で求めるトピックなどを、運営委員会で主担当を務める麓一博氏にお話を伺った。
――まずは自己紹介をお願いします。
麓:株式会社セガゲームスでオンラインコンテンツを制作する事業部に席を置きつつ、テクニカルアーティストとして、他部門に対してもデザイン面でのテクニカルサポートをしております。CEDECではビジュアルアーツ分野を担当しています。
――この分野で扱う話題について教えてください。
麓:詳しくはセッション分野定義に書かせていただきましたが、要はグラフィックスです。目に見える部分全般の技術やセンス、制作手法について取り扱います。
――最近のCEDECを見てきて感じるトレンドの変化はありますか?
麓:ビジュアルアーツを支えるワークフローやパイプラインの部分ですね。Houdiniなどのノードベースを使ったプロシージャルによるアセット制作が注目されてきて、各社でいい感じにワークフローに取り込んでいく方法を模索してきて、昨年からはその成果が発表され始めました。今後は手法として定着し、安定していくと思います。
――では、より新しい分野についてはいかがでしょうか
麓:AIを使ったアセット制作ですね。これまで長く研究されてきましたが、ディープラーニングや機械学習のツールや環境が公開され、使いやすくなってきたことで、大量のアセットを自動的に作ることが具体的に見えてきました。各社でワークフローに取り入れていこうとしている段階だと思いますので、こういったセッションを応募していただきたいと思っています。AIは来年や再来年くらいにかけてさまざまな事例が出て、またCEDECを盛り上げてくれるだろうと思っています。
――今は研究段階から実用段階に移る過渡期というところですね。
麓:例えば私の会社では、顔認識を学習させて、キャラクターの顔の部分をアイコンとして切り抜くというものを実用化しています。他にも写真から顔をブレンドして自動生成するというものが注目されていて、ゲームでもキャラクターのバリエーションを増やすのに使えるのではないかと思っています。機械学習やディープラーニングは、ゲームに乗せてリアルタイムに計算するにはまだまだ処理負荷が重いものの、オフラインでは十分使える速度なので、アセット制作に活用して作業を効率化する実例はどんどん増えていくはずです。
――ご自身の職業柄もあるのかもしれませんが、ビジュアルアーツ分野におけるAIの注目度はかなり高そうですね。
麓:AIによるデータアセット制作は、みんなどうしているのか純粋に興味があります。たくさんある中でどれかを選択するだけでも時間がかかるので、それぞれの特徴をまとめたような発表があるなら聞いてみたいです。
――他に注目したいトピックはありますか?
麓:パフォーマンスキャプチャやモーションキャプチャも、最近変わってきています。モーションキャプチャは、大きなスタジオにたくさんのカメラを置いて、銀玉を付けた服で撮るというイメージがあると思いますが、最近はディープラーニングやVRの技術などを応用して、簡単なセットでモーションキャプチャができます。フェイシャルキャプチャもスマートフォン1つあればできるようになってきましたし、モーションデザイナーやアーティストが自分の席でキャプチャできるような時代が来ていると感じています。そのデータを使って、どのように製品レベルのモーションやフェイシャルアニメーションに落とし込んでいくかという点は興味があります。
――機材の価格は以前とは桁違いに安くなっていますから、使い方も変わってきそうな気はします。
麓:新しいキャプチャデバイスやAIを使ったアセット制作が実用化されていくことは喜ぶべきことですが、テクニカルアートの分野として見ると大変です。新しいことに対応したワークフローやパイプライン、ツールのスクリプトなどを作る必要が出てきますし、それらの詳細をテクニカルアーティストが学び、使い方まで提唱までしていかねばならないとなると、学ぶべき分野がかなり広がります。難しいことですが、いつかはやらなければいけないという状態ではあります。
――以前、テクニカルアーティストの教育が課題だという話をされていましたが、最近はいかがですか?
麓:何年か前に比べると、新人として入ってきたテクニカルアーティストがある程度育ってきて、学んだ技術を自分たちの考えでワークフローに落とし込めるようにはなってきました。ただ、明確にこういう育成方法があるというわけではなく、今も模索中です。
――そこも事例として発表して欲しい部分と言えそうですね。
麓:そうですね。とはいえ最近は、新卒の時点でテクニカルアーティストを希望する人が増えてきています。ゲーム関係の学校でグループワークでゲームを作る際に、パイプラインやツールを作る経験をした人が、自分に向いていて楽しいと感じて希望してくるようです。昔は存在しない職種で、入社後に自然発生する形でした。
――最初からやりたいと思っているというのは、時代の変化ですね。
麓:そういう意味では育成だけでなく、リクルートにおいて何を評価基準にして採用しているのか、そこからどう育成して実際にテクニカルアーティストとして働けるところまで至るのか。その一連の流れを共有できる機会はCEDECしかないと思っているので、そういう講演があるととても助かります。
――そのほか注目したいトピックはありますか?
麓:これは毎年お話ししているのですが、人の心を動かす絵を作るのは、結局のところ、その人のセンスや感性だったりします。育てるとか誰かを真似るとかではなく、その人が持っているものです。しかしセンスは生まれ持った才能だけではなく、他者と刺激を与えあう中で成長したり、自分の立ち位置を決めていったりするものです。純粋なアートワークをやっている方や、最近多いのはカードイラストをやっている方などが、講演で自らのセンスの共有をすることで、CEDECはお互いを刺激し成長していける場になっていけると思っています。
――CEDECに関わらず、講演と言うと大きな実績や新しい技術を発表する場というイメージを持ちがちですが、仕事の工程と成果を見せるだけでも大いに刺激になるということですね。
麓:特にアートの分野はそうです。例えば岩の絵が実はジャガイモの写真を撮って色を変えたものだったりと、工程の中に結構新しい発想が出てきます。1つ1つの工夫や感性をお話しいただくだけでも、新しい技術に匹敵するくらいの驚きや感覚があります。
――他にもいろいろ伺いたいのですが、この分野は特に求めるトピックの種類が多いように思います。
麓:あえて細かくカテゴリ分けして羅列しています。自分が普段やっている作業が何なのかが明確にわかっていない人も多いと思いますので、作業を1つずつカテゴリ分けすることで、このジャンルで講演できるなと思えるようにしています。ただ見た目の部分は普遍的なもので、分野として新しいものが増えることはあまりないので、毎年少しずつ増える感じで多めに取り扱っています。細かいですが、興味がある方はぜひ目を通していただきたいです。
――では最後に、応募を考えられている方に向けてメッセージをお願いします。
麓:アーティストは普段、PCに向かって綺麗な絵を作るという仕事をしていると思いますが、その何気ない工程の中に、他の人にとっては新しい発見や有用な情報がたくさん詰まっていると思います。私もツールを作って欲しいと依頼されて作業の様子を見に行くと、「何でこんな発想が出てくるの?」と思うことがよくあります。自分がやっている作業を1回見直して、新しいとか古いとかは関係なしに公募に出していただけると嬉しいです。そして欲しい情報がある時は、自ら発表する事が一番効率がいい方法だと思います。自分がこの仕事をやっている人間だということを世間にタグ付けすることで、他の方法やさまざまな情報が自然に流れてくるようになります。とてもメリットのあることなので、挑戦してみてください。
――ありがとうございました。
石田賀津男(フリージャーナリスト / http://ougi.net)