スターウォーズ旧3部作やインディージョーンズ、E.Tといったハリウッド大型娯楽映画にあこがれて学生時代をすごした僕は、いつしかそれを支える特撮を創りだすマジシャンを目指すようになりました。大学卒業からほどなく1989年から運良く業界の頂点に君臨するILMのマットアーティストとしてキャリアをスタートすることができたのですが、それから数年のちに映像の世界ではすさまじい勢いでデジタル化の嵐が吹き荒れ特撮現場の各パートがコンピューター上で行う作業に置き換えられていきます。結果としてデジタル化以前のモーションコントロールカメラやオプティカルプリンター、アニメーションスタンドが主役の特撮現場の最前線を体験した後に、自ら試行錯誤や葛藤を繰り返しながらデジタル化の最前線に身を置くことができる幸運に恵まれました。いまや油の匂いも絵の具の匂いもエポキシ樹脂の匂いもしない現場で製作をする毎日ですが、アナログ時代を経験できたことで培った「アナログマインド」は僕の最大の強みであると思っています。過去の作品例を振り返りながら、ところどころににじみでてくるかもしれないそんな僕の「アナログマインド」を拾って帰っていただけるような話ができればと思っています。
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上杉 裕世
INDUTRIAL LIGHT & MAGIC (ILM)
シニアマットアーティスト
1964年広島県生まれ。
大学在学中に『スター・ウォーズ エピソード6 ジェダイの帰還』(1983年)を観て特撮の道を志す。その後、マットペインターのロッコ・ジョフレに師事。
1989年、INDUTRIAL LIGHT & MAGICに入社。『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』(1989年)、『ダイ・ハード2』(1990年)、『ジュラシック・パーク』(1993年)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)などの制作に参加。1995年に担当した『スター・ウォーズ 特別編』では、3Dマットペインティング(主観移動表現)を開発し、マットペインティングの表現領域を大きく広げる。以後、『エピソード3 シスの復讐』(2005年)に至るまで、『スター・ウォーズ』シリーズ全作でデジタル・マットアーティストを務める。2002年の『エピソード2 クローンの攻撃』では、アメリカ視覚効果組合(VES)最優秀マットペインティング賞を受賞。
作品:『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008年)、『トランスフォーマー/リベンジ』(2009年)、『アバター』(2010年)、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011年)、『アベンジャーズ』(2012年)、『バトルシップ』(2012年)、エミー賞最優秀視覚効果賞を受賞したTVシリーズ「インディ・ジョーンズ若き日の大冒険」などがある。2010年にはテレビ東京の『世界を変えた100人の日本人』に選出。